「マクロレンズでポートレート?」と少し意外に思うかもしれません。
でも、タムロンの90mm F/2.8 Di III MACRO VXDを使ってみると、そんな気持ちはすぐに払拭されました。
高速で静かなAF、近接だけでなく中・遠距離でもしっかり描き出す解像感。
“ポートレートマクロ”と呼ばれるのも納得のバランスの良い性能です。
実際にポートレート撮影で使ってみたので、作例とともにこのレンズの魅力と気になった点を率直にレビューしていきます。
なぜタムロン90mmマクロを選んだのか
小物のブツ撮りをするときには、CanonのTS-E90mm F2.8Lを使うことが多いです。
ティルト・シフトが必要ないときでも、中望遠レンズとして優秀なこのレンズですが、マニュアルフォーカスなので、AFが欲しくなる場面もチラホラ。
ビューティー系の人物撮影やアクセサリーのモデルカット、手持ちでサクッと撮影したいちょっとした物撮りなど、AFが使えて近接撮影可能な100mmくらいのマクロレンズが必要な場面はそれなりにあるので、購入することに。
Canonを使っていたときは、Sigmaの105mmマクロやRF100mm F2.8Lを愛用していました。

マウント変更して、SONY純正のマクロレンズにしようと思っていたのですが、10年前くらいのレンズで、ちょっと古さが気になります。
そんなときに、タムロンから最新のマクロレンズが出ました。
不勉強だったので知らなかったのですが、タムロンのマクロは”タムキュー”の愛称を持つ歴史あるレンズとのことです。
ポートレートマクロと呼ばれることのあるこのレンズは、ブツ撮りから人物撮影まで使いたいという用途にもピッタリだと思い、選んでみました。
サクッと動画でレビュー
90mm F/2.8 Di III MACRO VXDってどんなレンズ?

2024年10月に発売されたこのレンズ。
45年の歴史を誇る「タムキュー」の最新版です。伝統的な描写力と最新の技術を融合させたミラーレス用のレンズとして開発されました。

タムロンのレンズは何度かレンタルしたことはありますが、購入するのは初めてです。
価格は実売で9万円台といったところ。
SONY純正のSEL90M28G(10年前のやや古さが拭えない)が15万円前後なので、タムキューはかなりコスパが高いと思います。
外装はプラスチッキーで、軽さも相まって高級感がある感じではないですが、価格を考えると妥当なクオリティかと。

レンズフード、レンズ・リヤキャップ込みで約729g。
軽くて安っぽい的なことを書きましたが、使用する上ではレンズが軽量なのは良いことです。

レンズの全長は126.5mmと、このクラスのレンズとしてはやや短めで取り回しが良いです。
ただ、レンズフードが大きいので実際に使うときは結構な存在感があります。

α7CIIに装着するとこのような感じで迫力があります。
外装も高級感があまりないと言いましたが、デザインのシンプルさと塗装の綺麗さから、写真で見るとスタイリッシュで格好良いと思います。

操作系は最小限。フォーカスホールドボタンと、フォーカスリミッタースイッチのみです。

レンズのフォーカスホールドボタンには「押す間認識切」を割り当てています。
レンズによって、このボタンの有無があるので操作性の統一という意味で、こういうボタンに機能を割り当てるのはあまり好きではないです。ただ、人物の顔が画角にあるときに、アクセなどの小物にピントを合わせるときなどに多用するので、割り当てています。
マクロレンズなので、AF/MF切り替えスイッチはレンズに欲しかったところです。
カメラボディに割り当てれば良いだけですが、切り替えスイッチを付けるのはそこまで大変そうでもないので、付けておいてくれればとも思います。

このレンズは等倍マクロ。最短撮影距離は0.23mです。
実際に最短撮影距離くらいで撮影すると、被写体とレンズ先端の距離はこれくらい近くなります。
最小絞りはF16。
絞りすぎると小絞りボケが発生してしまうなどのデメリットもありますが、マクロレンズとしてはもう少し絞りが深いほうが良かったというのが正直なところ。
マクロもスナップもこの1本で。作例で見る描写力

まずは物撮りでの近接撮影の性能から。
ピントはPELAGOSのロゴあたりに合わせています。
絞り開放からピント面は解像感があり、キレの良いシャープな描写です。
ベゼルの上部、50のあたりにもピントが来ていますが、ベゼルのヘアラインもきっちりと描写されていて、画面全域で均一性が高いのが見て取れます。
前後ボケも自然で滑らか。12枚絞りを採用しているので、玉ボケはきれいな円形になっています。


マクロ域だけでなく、中・遠距離も安定したキレのある描写です。
画面全体で均一な描写、軽く取り回しの良いレンズサイズのおかげで、風景やスナップ撮影でも活躍してくれます。

α7CIIとの組み合わせでは、上空の飛行機にもバッチリピントが合いました。
AF-Cでは、一瞬で被写体を捉え音もなくピントが合います。
明るい日中では、近接〜遠距離までかなり優秀なAF性能です。
“ポートレートマクロ”と呼ばれる理由を作例で見る
ここからは、ポートレートでの描写をチェックしていきます。
マクロレンズとしての性能は十分すぎるほどでしたが、“ポートレートマクロ”の名にふさわしい中望遠レンズとしての実力はどうでしょうか。
実際に人物を撮影して感じた印象を、作例とあわせて紹介していきます。


まずは寄りカットから。
人物にここまで寄って撮影するときも、90mmの中望遠レンズなので適度な距離感で撮影できます。
ピントの合った目はシャープですが、カリカリ過ぎることもなくポートレート向きだと思います。
F2.8と、ポートレートでよく使われるような大口径レンズほど明るくはないですが、寄ることで大きなボケが得られます。
ピントの合った目以外は、なだらかにボケていき、背景のボケも嫌なうるささがなく、スムースです。


少し引き目に撮影しても、解像感はしっかりあります。
F2.8なので背景が近い場合のボケ具合はそれなりといったところ。
明るいところではAFは迷いなくスッと合いますが、やや薄暗い室内の場合は迷う場面もそれなりにありました。
他にもスタジオ撮影などで暗めのモデリングライトなどのシチュエーションも、やや苦手かなという印象です。スタジオで、三脚にカメラを固定して3000カットくらい人物撮影をしてみましたが、5%くらいはピントが甘いカットがありました。


遠距離でも優れた描写性能を発揮します。
85mmがポートレートの王道と言われるように、90mmくらいの画角はポートレート撮影にちょうどよく、背景の整理もしやすいです。
屋外日中ではAFもかなり早く正確なので、動きのあるモデルカットも余裕で撮影できるポテンシャルのレンズだと感じました。

ほどよい圧縮効果と歪みのない描写で、ヘッドショットくらいの寄りカットを撮影しやすいです。
これくらいの近接撮影でも、AF−Cは迷いなく正確なので、ビューティーやヘアの撮影にも向いていると思います。
たいていの85mm単焦点レンズよりも、最短撮影距離がかなり短く寄れるレンズなので、同じような焦点距離ながら明確に使い分け可能です。
ピント面のシャープさや解像感はありながら硬すぎない描写は、むしろ人物撮影でこそ真価を発揮するのかもしれません。
マクロもポートレートも、この1本で
タムロン90mm F/2.8 Di III MACRO VXDは、マクロ撮影に必要な高い解像力と、ポートレート撮影に求められる自然なボケ味や取り回しの良さを兼ね備えた、まさに“ポートレートマクロ”という呼び名にふさわしい一本です。
マクロレンズとしての性能はもちろん、中望遠単焦点レンズとしても十分に使える性能で、ポートレート・物撮り・スナップと幅広いシーンで活躍してくれます。
ただし、暗所でのAFにはやや不安が残るため、低照度環境で使うことが多い場合は、その点を頭に入れておいた方がよいかもしれません。
とはいえ、約9万円台という価格を考えると、描写力・AF性能・使い勝手を高いレベルで両立した非常にコストパフォーマンスの良いレンズです。
「寄って撮れる中望遠単焦点」を探している人にとって、かなり有力な選択肢になると思います。

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